これまで店舗事業とEC事業は切り離して考えられることが一般的でしたが、近年は店舗で働くスタッフの力をDX化することで、EC売上を大きく成長させる事例も少なくありません。
STAFF STARTも、今ではさまざまなジャンルの小売業、あるいはサービス業で導入が進んでいます。第一部では、弊社バニッシュ・スタンダードの薄井から、STAFF STARTによるオンライン接客について説明しました。
薄井:新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年以降は日本全国の実店舗で時短営業や営業自粛が迫られ、店舗オーナーはもちろん、店舗スタッフの方々は非常に厳しい状況へ追い込まれてしまいました。
店舗から客足が遠のき、集客や売上が以前ほど見込めない中、小売業界で再注目されているのがEC活用や実店舗でのデジタル対応です。実店舗と切り離された従来のEC事業は、店舗売上の流出を促進する恐れがあるため、敬遠する店舗スタッフも少なくありませんでした。
一方で、STAFF STARTが考えているのは、接客力や商品知識に富んだ店舗スタッフの力によってECのポテンシャルを最大化する、デジタルとリアルが融合したECサービスです。
つまり店舗スタッフが同サービスを通じて、コーディネート画像や動画などのコンテンツを活用することでオンライン接客を実現するOMO(Online Merges with Offline)サービスとも言えます。
STAFF STARTはアパレル業界を中心に、化粧品、食品、家電量販店に至るまで、あらゆる業界で広く受け入れられてきました。アパレル大手のベイクルーズ様でも導入いただいており、年商500億円のうち、7割をSTAFF START経由で売り上げています。
STAFF STARTがここまで大きく売上に貢献できるのは、実店舗と同様の接客・購買体験をECサイトでも実現できることにあります。体型や身長などの店舗スタッフのパーソナルな情報に加え「洗濯してもヨレませんでした」といった「体験」など、店頭と同様の情報を発信できるため、お客様はECサイトでも店頭と変わらないコミュニケーションや接客体験が得られるのです。
従来のアパレルECの課題であった、購入時のお客様の不安や買いにくさを、STAFF STARTを通じて店舗スタッフがオンライン接客を行うことで大きく減らすことができます。
一方食品業界のECでは、商品の写真を掲載するだけでなく味覚を訴求する必要がある分、オンラインで商品の良さを伝え切るのは困難です。STAFF STARTを導入していただいているエノテカ様では、店舗スタッフが実際に試飲した商品のレビューを独自の評価軸とともに発信しています。お客様に実際に試飲いただくことはできなくても、店舗スタッフがその味わいをテキストとグラフで表してくれるため、写真のみを掲載する場合よりも、大きな購入促進に繋がっています。
また、ブライダル業界をはじめとするサービス業でも、STAFF STARTを導入いただいています。アニヴェルセル様では、ウェディングプランナーが自分でコーディネートしたメイクやドレス、あるいは結婚式そのものの様子を発信することで、訴求力の拡大に努めています。
STAFF STARTはアパレル業界の課題解決を軸に開始されたため、アパレル業界に特化したサービスであると思われることも少なくありません。しかし、現在はコスメや食品、家電量販店、家具・インテリアといった小売業全般での活用はもちろん、ブライダルやエステ、ヨガ、さらには住宅や保険といったサービス業に至るまで、広く使っていただけるサービスとして、今後も幅広い展開を予定しています。
自社ECサイトを活用するSTAFF STARTの最大のポイントは、大手ECプラットフォームとの差別化です。ただ商品画像を並べただけのECサイトでは、価格や配送サービス、品揃えといった側面での勝負を強いられてしまいますが、STAFF STARTを通じて、店舗スタッフという人材を最大限活用することで、自社ECサイトのさらなるブランド化が見込めます。
STAFF STARTの効果はすでに多くの導入企業様で現れており、2021年8月にはサービス経由での年間流通総額が1,200億円を突破しました。店舗スタッフによるリアリティのある情報発信が、どれだけお客様に求められているかを体現する数字であるとも言えるでしょう。
また、一人で月間1億円以上をECサイトで売り上げる店舗スタッフのほか、月間500万円以上を売り上げるスタッフはすでに622人、1,000万円以上は218人も登場しています。現場で働くスタッフならではの実力やノウハウをオンラインで表現できる環境を作ることで、これだけの価値を生み出せるのは無視できない事実です。
そもそもSTAFF STARTは「店舗スタッフがECに立つという考え方によって始まりました。商品・レジ・スタッフという三要素を備えていた店舗に対し、従来のECサイトは商品・レジは確保できていたものの、スタッフが不在であることが最大の懸念事項でした。STAFF STARTは、そんなECサイトにおけるスタッフの不足をプラットフォームの提供によって補うサービスです。
とはいえ、「店舗スタッフがECに立つ」ことだけがSTAFF STARTのゴールではありません。従来のサービスとSTAFF STARTが異なるのは、オンライン接客によるECサイト上の売上が店舗スタッフ本人や所属店舗の評価に直結する仕組みを採用している点です。これまでは、店舗スタッフがどれだけECに力を入れても、自身の評価にはつながらない、店舗売上にはつながらないという不満が、オンライン接客強化の障壁となっていました。
そこでSTAFF STARTは、こうしたジレンマを解決すべく、店舗スタッフのEC上での活躍を評価につなげるための仕組みづくりに積極的に努めてきました。
店舗スタッフによるEC売上の貢献を企業が評価できる体制、つまり「EX(Employee Experience)=スタッフの成功体験」作りをSTAFF STARTがサポートすることで、店舗スタッフのモチベーションを向上させ、EC売上増加を実現しています。
成功体験づくりと言っても、実際に行っているのはシンプルな取り組みです。まず、スタッフ個人のEC売上を数値化・可視化できる仕組みを提供することで、コンテンツのPVや「いいね」の数以上に重要な指標を明らかにしました。可視化した売上に対して、企業がインセンティブを提供することで、更なるモチベーションの向上が期待できます。現在、STAFF STARTの導入企業の7割がインセンティブを採用しており、平均付与率は3%、最大で7%ものインセンティブを、売上に貢献してくれる店舗スタッフに配布しています。
また、店舗スタッフ自らも自分個人の成績を閲覧できるようになっており、企業内やブランド内ランキングで自分がどの位置にいるかなどが確認可能です。ランクアップに向けてモチベーションを高められるだけでなく、自身の投稿経由の売上や販売数を確認できるため、店舗スタッフ自らが試行錯誤して売れる投稿、売れる接客を学べる機会にもなっています。
さらにSTAFF STARTは、自社ECサイトだけでなくInstagramなどのSNSに同時に投稿できるSNS連携機能も備えており、店舗スタッフが個人で集客を行えるのも強みです。数万人のフォロワーを抱えているスタッフさんが、自身の出勤日をSNSに公開し、そのまま店舗集客へと結びつけているケースも見られます。つまり、オンラインからオフラインへの送客を実現しているのです。EC売上だけでなく、店舗集客の増加につながるという点もSTAFF STARTならではの強みと言えるでしょう。
そして、店舗スタッフとお客さんのコミュニケーションをさらに深めるべく、新たに提供を開始したのが「LINE STAFF START」です。従来のSTAFF STARTの役割は、店舗スタッフがECサイトにコンテンツを投稿する、マスコミュニケーションが主流でした。LINE STAFF STARTでは、LINEを通じて、店舗スタッフと顧客が一対一でコミュニケーションをとることが可能です。これまでよりもさらに顧客とダイレクトにつながれることで、更なるリピーターの獲得や、SNS活用を進められるでしょう。
日々変化するオンライン接客の形ですが、企業と店舗、そしてECと顧客という関係性の中心に店舗スタッフが立つことによって、それぞれの結びつきを強くしていこうというのが、STAFF STARTの掲げる目標です。
STAFF STARTをはじめとするシステムを実装するためには、環境構築も求められます。コマースニジュウイチの松本氏は、テクノロジーの新陳代謝が加速する今日においては、常に最先端の環境をすぐに実装できる準備を整えておくことが重要だと説いています。
松本:コマースニジュウイチでは、アルペン様のOMO戦略に役立つ半歩先の購買体験を届けるECシステムを提供しています。
そもそもOMOというのは、オンラインとオフラインの強みを消費者視点で融合することで、新たな消費体験を創出しようという概念です。例えばアパレルECサイトで買い物する場合、オンラインで購入したい服が見つかっても、実際の色味や生地感は実物を見ないとわかりません。
従来のオンラインショップでは、こうした「商品の実体験」を得ることが難しいものでしたが、近年はECサイトを通じて店舗での試着予約を行い、商品を店頭で確かめてからECサイトで購入を決定する、というプロセスが採用されています。
ここで注目すべきは、消費者が「オンラインで実現できない試着体験」をオフラインとの融合によって解消している点です。オンラインサービスの一環として試着予約システムを実装し、店舗体験へと繋げるOMO戦略の一つと言えます。
ちなみにOMOは、クーポンをネットで配布するなどして、店舗への送客を促すO2O(Online to Offline)とは別物と考えられていますOMOはあくまでもオンラインとオフラインのMerge、つまり融合に注目した戦略であるためです。
同社では、O2OではなくOMOの推進に注力しています。人口減少に伴う市場の縮小によって、事業者はより多くの新規顧客を獲得するよりも、既存顧客との関係を強化し、末長くお付き合いをしていくことが重要であるからです。OMOはどこでも商品を買えるという、タッチポイントの増加による顧客獲得に貢献するのはもちろん、本質的にはユーザーの利便性向上に不可欠な取り組みと言えるでしょう。
松本:OMOがこれからの小売業に欠かせないとはいえ、実際にシステム面を整備するとなると簡単には行きません。既存システムがカスタマイズにカスタマイズを重ねて複雑化してしまっている場合、システム間の連携が困難であるためです。
システム連携が困難なレガシーシステムを抱えている場合、効率的なOMO投資は望めません。コマースニジュウイチでは、時代に合わせて柔軟にシステムを連携、及びアップデートできる環境構築に力を入れています。必要に応じて拡張と取り外しを行える、いわゆるマイクロサービス思考を形にすることで、戦略的なOMO投資を可能にします。
DXはOMO戦略も含め、単に既存の業務をデジタル化するだけでは実現できません。企業の成長につながる、難易度の高い柔軟性と拡張性を新たに社内システムとして構築することで、STAFF STARTのようなサービスの導入もスムーズに進めていくことができます。
半世紀近くアウトドアブランドやスポーツ用品を扱ってきたアルペンにおいても、ここ10年でECとオフラインの融合が急速に進んでいます。ECやO2Oサービスを展開する中で見えてきた課題、そしてそれらを解消すべくスタートしたOMO戦略とはどのようなものなのでしょうか。
第3部では、株式会社アルペンの武藤氏より同社のOMO戦略についてお話いただきました。
武藤:株式会社アルペンは、1972年にウィンター専門の小売店を立ち上げ、ゴルフ専門店の「GOLF 5」やスポーツ総合用品店「SPORTS DEPO」など、時代を先駆けて展開してきました。EC事業も10年以上前から着手しており、3年前には自社ECの展開もスタート。一から自社に特化したオンラインショップを構えるとともに、2019年にはスマホアプリの提供も開始しました。
2020年にはO2Oサービスの一環として、ネットで購入した商品の店舗受け取りサービスを展開し、利便性向上に向けて動き始めています。2021年10月にはSTAFF STARTを導入、OMO戦略にも本腰を入れ始めました。
10年以上、EC事業を手がけてきましたが、やはりオフラインとオンラインの相互利用をお客様に体験してもらうことは難しく、O2Oだけでは物足りないというのが課題です。特にスポーツ小売業界はDX化が遅れているだけでなく、近年はアパレル企業のスポーツ部門参入、いわゆるアスレジャーも加速しており、早急な対策が求められているところです。
また、スポーツ小売は専門性の高い業界ということもあり、他社と扱っている商品が被ってしまいやすく、価格競争に陥りやすいのも特徴です。メーカーさんの間でもD2C化が進み、小売事業者を挟まないケースも増えているため、やはりテコ入れが求められています。
そんな中で弊社がスタートさせたのが、STAFF STARTを用いたOMO戦略です。リアル店舗とECの強みを融合し、アルペングループでしかなし得ない体験の提供を実現します。
まず、アルペングループが強みとしているのが、全国に展開している約400の実店舗です。全国に顧客とのチャネルをオフラインで開いているだけでなく、店舗スタッフの育成を進めてきたことで、販売力のある人材が各地に点在しています。
プロとしての実績もある店舗スタッフのスポーツ経験や知識を、各地の店舗のなかだけに留めてしまうのは大きな機会損失です。STASS STARTを活用することによって、今後は店舗に限らずECサイトでも店舗スタッフの能力を発揮してもらいたいと考えています。
また、同社サービスに登録いただいている会員数は、約700万人というところにまで達しています。400の店舗に眠る人材と、700万の会員を結びつけることが、弊社でのOMO戦略の軸となります。
10月より開始したSTAFF STARTの運用ですが、すでに100名ほどのスタッフが投稿を行っています。キャラクター性に富んだ資格や経歴を持った人材が揃っているため、他社との差別化に大いに貢献できるのではと期待しています。アパレルのコーディネート画像を投稿しながらも、キャンプ用品のコーディネートなど、弊社のラインナップの個性が現れるコンテンツ発信に注力しています。
ゴルフ用品など、ギア関連の商品についてはスタッフのレビューコンテンツを掲載し、専門性の高い情報発信に努めています。実際の使用感など店舗スタッフの生の声が反映されているため、店頭と同様のセールストークで販売促進に繋げられるのでは、と考えています。
今後はオンラインとオフラインの融合をさらに進めていけるよう、店舗や商品だけではなく、スタッフのファン獲得を後押ししていく予定です。スタッフのファン獲得によって、店舗への送客を進めていくだけでなく、ECサイトでの販売促進も進め、リアルとECの両立を目指します。
例えば、店舗に陳列されている商品は、スマホアプリを通じてバーコードを読み取ることで、ECサイト上の商品ページを表示することもできます。店頭で購入に至らなかった場合も、自宅で検討してもらいEC上から購入してもらえるなど、豊富な選択肢を強みにしていければと思います。
店舗とECを通じて顧客の回遊性を高め、どちらも利用してもらえるようになることが、弊社が目指すOMO戦略のゴールのひとつです。STAFF STARTはまだ導入したばかりですが、専門性の高い知識や接客力をもつ店舗スタッフの方に自由に使ってもらいながら運用を進めています。
今後は、注目度の高いコンテンツを社内で共有しながら、コンテンツ作成の際に参考にしてもらうことで投稿の質を高めたいと考えています。アルペングループで発行している刊行誌「アルペングループマガジン」で特集を組み、紹介したりするなど、多様な使い方ができるのではないでしょうか。
武藤恵一氏
株式会社アルペン EC事業部事業部長
2001年4月アルペンに入社。10年間店舗勤務の後、業務改革プロジェクト、戦略企画室、VMD部を経て、2018年EC事業部長に就任。 同年10月に自社ECを立ち上げ、3周年の今、400店舗の強みを生かすOMO戦略の一環としてSTAFF STARTの導入に至る。
松本怜士氏
株式会社コマースニジュウイチ 取締役
2011年に株式会社Eストアーに入社。中堅企業から業界大手まで様々な業種業態のEC事業の改善に携わる。2020年より株式会社コマースニジュウイチにて新規営業統括責任者として、業界大手の事業社に対し最終消費者の利便性を意識したシステム再構築、EC事業改善提案を行う。
薄井 崇史
株式会社バニッシュ・スタンダード Sales & Marketing マネージャー
エン・ジャパン株式会社に新卒入社。その後、Webマーケティングツールを提供するシルバーエッグ・テクノロジー株式会社で、クライアントへの導入提案から、パートナー企業とのアライアンスの構築等を担当し、IPOを経験。その後、ランサーズ株式会社を経て、2020年11月に株式会社バニッシュ・スタンダードに入社。営業責任者として、ファッション業界を始め、化粧品・家具・家電・食品・小売等、様々な業種の「スタッフのDX化」をSTAFF STARTの提供を通じて支援する。