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セミナーレポート December 2, 2021

【セミナーレポート】DX検討中の小売企業必見! プロが教える「本気のDX」の進め方

長引く新型コロナウイルスの影響により、小売業界ではECサイト売上の強化や、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現による全社的な業務改善が喫緊の課題となっています。 一方で、DXと言っても具体的にどんな施策を実行すればいいのか、どんな課題を解決できるのかは広く共有されていません。小売業界のDX推進事例に詳しいオムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎氏をゲストに迎え、バニッシュ・スタンダード 執行役員の田中悠が、小売業界がDXに取り組むべき理由や、その効果的な進め方など「本気のDX」に向けた正しいアプローチを議論しました。

第1部:そもそもDXとは?小売業界にDXが必要な理由

DXを進める上でまず必要なのが、DXに関する基本的な理解です。なぜ小売業界がDXを強化すべきか、DXがどのようにビジネスを支えているのかについて、逸見氏に語っていただきました。

B2C-ECは12兆円の市場へ成長。一方で小売業界は停滞期を抜けられず

逸見:近年、コロナ禍で消費者行動が大きく変わったとされていますが、コロナの影響を抜きにしても、消費者の動向はダイナミックに変化しています。2013年以降、B2C-EC市場の規模は右肩上がりで大きくなっており、2020年の物販系市場の売上は前年比21.7%増の12.2兆円にまで成長しています。これは2013年の5.9兆円と比較すると、2倍以上の数字と言えます。

しかし、物販市場そのものが大きくなっているわけではありません。物販全体の市場規模を見てみると、2013年以降は150兆円前後にとどまっており、ずっと横ばいであったことがわかります。つまり、分母は伸び悩んでいるものの、EC化率だけが成長しているということです。

物販におけるEC市場規模を分野別に分析すると、家電は30%台後半、書籍は40%台と大きな伸びがみられる一方で、アパレル・雑貨は20%台と、まだまだ成長の余地が大きいことがわかります。特にアパレル分野は企業によってEC化率の差が大きく、EC運用が広く普及している会社もあれば、そうでないところも多いなど状況はまばらです。

さらに、食品・化粧品業界でもECの普及は遅れており、化粧品は6%台、食品に至っては3%台と、EC化率の平均である8%を大きく下回っています。

また、消費者の購買行動の変化も非常に顕著で、EC購入のおよそ50%がスマホ経由であることがわかります。2015年の27.4%という数字と比較すると、スマホからの購入の割合は約2倍近い数字になりました。企業がEC化を検討する際には、このような消費者の購買動向にも目を配る必要があります。

個人的な感覚としては、近年はさらにスマホ経由の消費活動が主体になっているように感じます。情報検索の7割〜8割、そして購買の6割ほどがスマホ経由となっているでしょう。

C2Cから予約システムまで。デジタル活用の機会はより広範に

スマホを使った消費活動に拍車をかけているのが、フリマアプリなどのC2Cサービスの登場です。2020年はC2C市場だけで1.9兆円ものマーケットを構築しており、前年からの伸び率は12.5%に到達しています。

一方サービス業界の市場規模は、新型コロナの影響により全体の予約件数こそ少なくなっているものの、ネット予約の需要は大きくなっています。予約の手間を減らしたい、あるいは好みの施術師やスタイリストを予約システムから自由に選びたいというニーズも今後は大きくなっていくかもしれません。

世帯収入が減少していることからも、もはや国内の小売市場に成長を見込むことはできません。こうした状況下でも国内売上を確保するためにはどうすれば良いのか、そして海外進出をどのように展開していくかを考える上で、ECはなくてはならない存在となっています。

今やECは副次的なネット店舗にとどまらず、実店舗以上の売上を弾き出すことがありますし、楽天やAmazonのような大型ECモールへ出店すれば、自社でECシステムを抱えずともネットショップを運営できます。実店舗とECの両方で消費者にアプローチできれば、相互に販売促進できるでしょう。オムニチャネル化によってECは企業のインフラとなり、一事業としてではなく企業の基盤として成長できる可能性を持っているのです。

STAFF STARTも、一見すると店舗スタッフがデジタル活用するシンプルなサービスに見えますが、実際には店舗スタッフのデジタル化に加え、ECサイト上のスタッフ個人の実績の可視化・評価など、スタッフの働き方全体に変化をもたらしています。スタッフのECサイト上の活躍が評価されれば、店舗とECの両方の売上が成長し、結果的に企業の成長にも繋がるためです。

第2部:DXを始めるならどこから?何から?

DXはデジタル活用を広く指す言葉ですが、それだけに具体的な施策や実行イメージが掴みにくいことも事実です。ウェビナーの中では、組織ごとに必要なアプローチや、どんな変化を読み取るべきかをテーマにしました。

中小企業と大企業のDXに向けた取り組みの違いと共通点

逸見:商品をオンライン・オフラインのどちらで販売すべきかも重要です。現在は、基軸はオンライン(=EC)としながらも、オフライン(=実店舗)との融合が理想的でしょう。STAFF STARTは、売場のシフトを促してくれるサービスで、「販売チャネル」ではなく、「人」に焦点を当てている点が大きな転換を招くと期待できます。

私もさまざまなクライアントのコンサルタントを手がけてきましたが、これまでは「ECを始めたい」「アプリを作りたい」といった個別相談が多かったのに対し、最近は中小企業と大手企業で相談の傾向が分かれるようになってきました。

中小企業の場合、「何からDXを始めれば良いのか?」という相談がほとんどです。顧客の見える化が進んでいない場合は単一のIDを軸としたデータベースの再構築、社内ネットワークに課題を抱えている場合は、サーバー管理のあり方を見直し、内製化の仕組みを整備するか、あるいはきっちり外部へ委託してしまうのか、メリハリをつける必要があるでしょう。

一方大企業の場合、「DXには取り組んでいるものの、何に力を入れれば良いのかがわからない」という悩みを抱えている傾向が強いです。全社的なDXが進んでおらず、部署ごとにDXが完結しているケースも多く、この場合はKPIに則って状況を整理し円滑なデータ活用ができるよう、情報共有体制を再構築する必要があります。

そしていずれの企業にも共通して言えるのが、企業の体力に見合ったDXを進めるべきという点です。キャッシュ残高や営業利益率、人材のリソース配分に無理が起きないよう、投資を行いましょう。

アフターコロナで変わる3つのこと

逸見:実店舗とデジタルの融合は、企業が顧客とより強いつながりを得る上で大きな意味を持ちます。アフターコロナの時代においては、企業のデジタルとの向き合い方にも変化が求められています。

1つ目の変化は、顧客と企業の接点が増えたことです。近年、実店舗とデジタルサービス、ECサイトとの融合によってオムニチャネル化が進みました。コールセンターとECサイトでカスタマーサポートを強化したように、新しい技術との掛け合わせは顧客との関係を親密にできる機会となります。

2つ目の変化は、デジタル技術で深まる地域との結びつきです。これまでインターネットは、距離を越えた繋がりを獲得するための手段と考えられてきました。しかしWebサービスの拡充に伴い、近年はむしろ自身の身近な環境と密着したネット運用が主流となっています。自宅の近所にあるテイクアウト可能なお店を探したり、営業時間を調べたりと、リアルでの体験を補うためのネット活用が進んでいます。

3つ目は、LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)が直接企業の社内指標や評価につながるという点です。新規顧客、既存顧客の購入額をそれぞれ見える化し、複数年度の継続売上に焦点を当てる必要があります。ここを伸ばすためには接客や利便性の改善を進め、顧客に自社のファンとなってもらうことが求められます。

そして、ファンの心を掴むためには、ネットだけでなく対面での営業も欠かせません。単にチャネルを統合するだけでなく、店舗スタッフもECから顧客情報を取得し、顧客に対して適切な接客を行えるよう、情報の双方向性を確保する必要があります。

お客様にとっては、ECでも実店舗でも「買い物をする」ということに違いはありません。企業が実店舗とECを繋げ、シームレスで利便性に優れた購入体験を届けるのが、真のオムニチャネル化です。小売業において目指すべきDXとは、そんな正しいオムニチャネル化を目指すことではないでしょうか。

現状、そのような明確な目的を持ってDXに取り組んでいる流通小売企業はまだまだ少なく、改善の余地が大きいと言えます。デジタルツールの散発的な導入で満足するのではなく、仮説検証と分析改善を徹底できる体制を整備する必要があるでしょう。

第3部:DXを進める上でのマイルストーン

DX実現のためには、目指すべき目標を正しく設定することが重要です。どんな目的に則って施策を展開すれば良いのか、理想のマイルストーンを逸見氏が提示しました。

社外のDXと社内のDXの実現

逸見:社外のDXと社内のDXでは、アプローチに大きな違いがあります。社外DXの場合、アプリを作ったりECサイトを作ったりすることで、顧客向けのサービスの拡充を図ります。情報提供と販売のチャネルにDXをもたらすことで、利便性を向上させる施策です。一方の社内DXは、社内の情報を見える化することに力を入れる取り組みです。顧客情報の整理や在庫管理の改善、さらにはスタッフの評価軸の刷新などによって、部署間の連携強化や業務効率化を実現します。

これらのDXは、社外・社内のどちらかに力を入れるのではなく、どちらも並行して進めることが求められます。片方が疎かになると、顧客サービスの低下や部門連携能力の低下につながるため、結果的にどちらのDXも失敗に終わってしまいかねません。

人材の育成

逸見:DXを円滑に実現するためには、外部に丸投げする習慣を脱却することも重要です。具体的には、外部の人間に施策を任せるのではなく、社外の人間に社内の人間を育ててもらうという分業体制を敷くことが肝要です。DXに関する外堀の知識は後から十分に学ぶことができるため、まずは現在対応している業務経験や知識をベースに、デジタルの力で業務を効率化できる人間を育成することが重要です。

長年の店舗経験があるスタッフであれば、感覚的に自社に好感を持っている顧客やリピーターを瞬時に把握できます。数値化された顧客データで自身の感覚を再確認できる環境があれば、自発的にDXの知識を吸収してくれます。どんな商品が売れるのか、どんな顧客がどの商品を買ってくれるのかなど、感覚的な接客センスが数値化されてこそ、店舗スタッフの積極的なデジタル活用や、DX人材としての育成を進められます。

組織にオムニチャネル思考を定着させる

逸見:小売DXの実現において、組織の縦割り構造は大きな意味を持ちます。トップダウン方式でなければ特定の商品を強化したり、販売促進したりといった組織的な戦略を実行に移すことが難しくなるため、初期の段階では有効活用すべき仕組みです。とはいえ、ある程度DXが進んだ段階になると、今度は顧客ベースで施策を考える必要が出てきます。こうした場合は、横串の戦略を選ぶようにしなければ、それ以上の発展が見込めなくなるため注意が必要です。組織の成長度合いに応じて、縦と横それぞれの施策を使い分けましょう。

こういった柔軟性のある組織風土を育てるためには、現場の人間が経営層に数字で説明できる必要があります。売上や財務諸表のデータ以外にも、顧客のニーズや動向を可視化したデータを提示し、提案に説得力を持たせられなければいけません。そのためにも社内人材の育成を丁寧に進め、LTVで店舗を評価できる体制を整えましょう。

顧客起点の相互支援/貢献評価軸:関与売上

逸見:ECの売上がいくらになるのかを考えるとき、重要になるのが「関与売上」の考え方です。実店舗とECの融合が進んでいる会社の場合、ECで商品を購入して、店舗で受け取るという仕組みを導入している企業も少なくありません。しかし、ECで購入されたにもかかわらず受け取りが店舗で行われるため、店舗の売上として計上されてしまうケースが発生しています。

EC事業の売上を適切に評価するためには、宅配で顧客に商品を送付する宅配売上、そしてECで購入し、店舗で受け取った場合の売上を合算して計上する必要があります。

商品の提示から購買、受け取りまでの全てをEC上で行ったわけではなくても、ECを介して売上につながっているのであれば、その分の働きをEC事業として評価しなければなりません。これを「関与売上」と呼びます。

田中:関与売上の考え方は、STAFF STARTのコンセプトに近いのではないでしょうか。店舗を展開している企業がECに力を入れ始めると、店舗スタッフの評価は相対的に下がってしまいます。そして彼らにECに協力してもらう場合も、店舗スタッフのEC売上への貢献が可視化されなければ、企業が正しく評価することはできません。

関与売上と同様に、評価軸を詳細に設定し、店舗スタッフをはじめEC事業に貢献する人たちの実績を可視化することで、DXの進度に大きな差をもたらします。いずれも店舗とECの積極的な相互支援につながり、ひいてはDXの推進力となるためです。

第4部:DXを阻害する要因はどこにある?

社内でDXを推進したくても、何らかの抵抗や反対に遭ってしまうと、理想としている全社的なDXを実現することは困難です。第4部では、DXを阻害する要因、そしてそれを解消するための方法について取り上げました。

あらゆる原因は「人」から

逸見:DXによる変化を拒む抵抗勢力の存在は、どの企業においてもDXの阻害要因として扱われています。しかしこの問題を丁寧に紐解いてみると、あらゆる反対意見もまた、会社を良くしようという思いから生じていることがわかります。

主な阻害要因はいくつかのパターンに分類することができ、それぞれに有効なアプローチを丁寧に検討する必要があります。例えば過去の成功体験に囚われている人には、彼らの成功体験を否定せず、世の中の変化に合わせた組織改革の必要性を説いてあげることが重要です。

世の中の変化を感覚的に理解してもらえない場合は、実際に消費者の立場から最新の消費活動を体験してもらい、その必要性を肌で感じてもらいます。デジタルの知見がないと不安を覚える人には、誰もがその変化についていけているわけではないことを伝えつつ、業務時間内で学びの機会を提供することが大切です。

DXに伴う不安と一つ一つ向き合い、安心してチャレンジに取り組める環境作りに力を入れることが、DXを妨げる要因を取り払うとともに、DXの推進力を確保する最善のアプローチです。STAFF STARTの導入で、店舗スタッフに新たな評価軸を設けることも、安心して働ける環境作りにつながります。

逸見 光次郎氏
株式会社CaTラボ代表オムニチャネルコンサルタント
学習院大学文学部史学科卒。 三省堂書店本支店勤務、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)立ち上げ、アマゾンジャパンブックスMD、イオンネットスーパー立ち上げとデジタルビジネス戦略担当、カメラのキタムラ執行役員EC事業部長のち経営企画オムニチャネル(人間力EC)推進担当を経て独立。現在は株式会社CaTラボ代表オムニチャネルコンサルタント。プリズマティクス社アドバイザー、流通問題研究協会特別研究員、日本オムニチャネル協会 理事、デジタルシフトウェーブスペシャリストパーナー、EVOCデータマーケティング取締役、ピアリビング取締役、資さんDX推進課長兼務

田中 悠
株式会社バニッシュ・スタンダード 執行役員
新卒でキヤノン株式会社に入社。一眼レフカメラのグローバルマーケティングを経験後、2015年より株式会社プレイドに参画。アパレル業界を中心にECサイトのCX向上に向けた取り組みをプランニングから技術的な実装まで幅広く支援。その他パートナーとのアライアンスや事業開発など様々なプロジェクトに従事し成長を牽引。2020年に株式会社バニッシュ・スタンダードに参画し、STAFF START事業全体を統括。2021年4月より現職。