―STAFF STARTを導入いただいたきっかけや背景についてお話しいただけますか?
中川:店舗集客の減少や急速なEC事業の拡大による影響によって、企業全体として今後店舗をどうしていくのか、店舗の在り方や意味を模索していた事がきっかけでした。ナノ・ユニバースでは、EC事業を他社より先行して推進していたこともあり、5、6年前からすでにその割合は全社売上高の45%前後にまで達していました。
しかし、その後比率はあまり変わらず50%をなかなか超えないことから気づきがあったんです。つまり、残りの50%の顧客はいまだに店舗を求めているということです。店舗とEC、それぞれにニーズがあることをあらためて実感しました。
その要因として、サイズ感や着用感が伝わりづらいというECならではの課題がありました。加えて、ナノ・ユニバースというブランドは中価格帯に設定した商品が中心でしたが、ECモール中心にタイムセールやクーポン付与等の施策が定常化されるにつれ、ブランドのマーケットが低価格帯のブランドとバッティングしつつある事が大きな課題でした。そこで、ブランドのアイデンティティを確立するためには、価格やモノで勝負するのではなく「コト」、すなわちプラスαの体験が必要だという結論に達したんです。
―御社が考える「コト」や「プラスαの体験」とは何でしょうか?
越智氏:いま考えているのはユニファイドコマースプロジェクト(Unified Commerce Project)という「店舗とECが一体化したブランド体験」です。店舗とECサイトを横断して顧客の趣味嗜好を統合し、それらのデータを有効活用することによってお客さま一人ひとりに合ったサービス提供することを目指しています。
弊社直営サイトMIX.Tokyo(ミックスドットトウキョウ)では店舗スタッフによるコーデを充実させているのですが、これらのコンテンツはSTAFF STARTの機能を使って店舗から直接、投稿される仕組みとなっています。顧客は自分の身長・体型に近いスタッフのコーデを見ることができるので、実際に着用したサイズ感やコーディネート感をイメージしやすくなっています。我々のユニファイドコマースの最大の起点となっているのがSTAFF STARTなのです。
―STAFF STARTを導入してみて実際にどのような効果があったか聞かせてください。
中川氏:最も大きな効果は、STAFF START経由の客単価が前年比10%増を達成したことです。これはスタッフの地道な努力によって、3ヶ月前に比べてコーデ投稿数が3倍以上に激増するなどコンテンツ強化に努めてきた成果ではないかと考えています。実際、STAFF STARTを経由したユーザーのCVRは、ブランドによっては最大300%増、客単価は平均して110%UPしています。
最近、私たちのECサイトは気になるコーディネートを丸ごと店舗で試着予約できるフリーフィッティングを始めたのですが、このサービスも大変好評いただいており、試着後に購入にいたる割合は80%にものぼりました。スタッフによるECサイト投稿が、お客さまの購買意欲をここまで高めると知って、社内全体がSTAFF STARTの力の大きさを実感しました。
越智氏:またSTAFF START導入によって、スタッフの行動と、売り上げとの関連性も徐々に明らかになってきています。これまでも顧客がついているスタッフはすでに何人もいましたが、それらを可視化することはできませんでした。実際、導入後は「STAFF STARTに投稿されたコーディネートやスタッフのSNSを見て来店した」という顧客が増えています。
これは、まさに弊社が掲げているユニファイドコマースプロジェクトが目指していた姿です。スタッフが主体的にECサイトを充実させることによって、店舗とECの融合が実現できたと感じています。
−STAFF START導入後、店舗スタッフの反応は変わりましたか?また成果をあげるために重要なポイントはありますか?
越智氏:STAFF STARTは売上獲得につながったスタッフの投稿が可視化されるため、コーディネート投稿に対するスタッフの期待やモチベーションがグッと高まりました。投稿がアプリから簡単に行えるだけでなく、自分の売り上げや貢献度が可視化されるため人事評価にもつながります。実際に活用するスタッフが納得できたことが、これほど大きな成果につながった要因の一つではないかと考えています。成果を出すためにはスタッフの理解と協力が欠かせませんから、スタッフのITリテラシー向上という教育の観点からもSTAFF STARTは、大変有意義です。
中川氏:ナノ・ユニバースではSTAFF START導入と並行して、ITリテラシー向上の一環としてスタッフ50名による個人SNSも開始しました。これは、STAFF STARTによってECコンテンツを充実させるだけでなく、ECや店舗に顧客を促す導線づくりのためです。外部コンサルティング会社の協力を得て、本部の教育担当全員でSNSの運用について一から勉強し直しました。
SNSの難しいところは「なぜその人をフォローするのか」という目的やキャラクター設定を明確にさせることです。スタッフの強みや特徴を引き出し、顧客に訴える魅力をSNSで発信してフォロワーやファンになってもらうことを目指しています。スタッフを起点にECや店舗を訪れてもらえれば、スタッフと顧客の関係性をより強化できると考えました。
―今後、さらにSTAFF STARTをどのように活用していきたいとお考えですか?
越智氏:いまだ収束の目途が立たないコロナ禍で、またいつ緊急事態宣言が発令されるか分からない状況ですから、ナノ・ユニバースではSTAFF STARTを利用できるスタッフ数を50名から300名まで拡大させました。
来期から、STAFF STARTを経由して売上獲得につながったスタッフには何らかの報酬を与えるインセンティブ制度や資格制度の導入も検討しています。今夏、試験的なインセンティブキャンペーンも実施する予定です。
スタッフ投稿が顧客体験の向上を生み、売り上げの可視化を通してスタッフのモチベーション向上につながるという好循環をさらに進化させていきたいと考えています。
中川氏:導入から半年ほどで、スタッフが自分の貢献度や実力を体感することができました。STAFF STARTの導入前は、スタッフの間でも「なんのためのEC作業か」「EC投稿しても、自分たちの評価は?」といった疑問の声も少なくありませんでしたが、ようやくスタッフの努力が報われてきたところです。
今後、さらにデジタルの力を活用して、スタッフの販売偏差値をスコア化できるようにしたいと考えています。全国スタッフの成長具合がきめ細かに把握しやすくなりますし、フォローが必要なスタッフには本部からアドバイスや教育体制を提供することも可能です。顧客満足度だけでなくスタッフのみなさんがそれぞれの個性や力を発揮できるような「従業員の成功体験(EX=Employee Experience)」を積み重ねていきたいですね。
越智氏:これからの時代の販売は、ますますECと店舗、顧客がシームレスに融合したスタイルが主流になっていくと予測しています。そこでカギを握るのは、店舗と同じく「ECの販売でもスタッフが主役になる」こと。つまり「スタッフコマース」の実現が必須です。
スタッフコマースの世界における販売は、店舗でのリアル接客だけでなく、ECやSNSなどを通じた顧客獲得も自在に使い分ける高いITリテラシーが求められます。ブランドコンテンツづくりにスタッフ一人一人の力が必要とされています。これが販売流通業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、それを実現するためには企業とスタッフ全方位による意識改革が欠かせません。
STAFF STARTはそうしたスタッフ中心によるDXの入口=インフラとなっており、今後さらに店舗でのチェックイン機能や、顧客情報の共有化など機能を強化させるつもりです。店舗とECの融合は、スタッフが主役として輝きながら、今後さらに輝きを増すビジネスモデルとして成長していくことでしょう。
越智 将平氏
株式会社TSI デジタルマーケティングDept. Dept長
2002年に株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、CRM、デジタルマーケティングを中心に、店舗とECの融合に取り組んでいる。
中川 大介氏
株式会社TSI デジタルマーケティングDept. マーケティングコミュニケーションSec.
2012年に株式会社ナノ・ユニバース入社し、ECモールの運用や公式オンラインストアのシステム開発、データ分析業務を担当。2021年のグループ会社統合よりデジタル領域におけるマーケティング計画支援やSNSの運用マネジメントを担うマーケティングコミュニケーション課に所属。
衣料品全般の企画・製造・小売り・卸及び輸出入