kocori/坂本 りゅういち氏(以下、坂本氏):皆さん、こんにちは。モデレーターを務めます坂本です。本日は、アパレル業界でトップクラスの売上実績やスキルを誇るお二人から、これから接客・販売に携わる上でヒントになるお話しをうかがえればと思います。それでは、中島さん、村岡さん、自己紹介をお願いします。
株式会社バロックジャパンリミテッド/村岡 美里氏(以下、村岡氏):バロックジャパンリミテッドの村岡美里と申します。2012年に入社し、約9年間、販売員としてキャリアを積んできました。現在は、本社のOMO推進部デジタルマーケティンググループに所属し、販売員のSNS活用や接客研修など主に人材育成や教育に携わっています。
株式会社トゥモローランド/中島 弘子氏(以下、中島氏):私は2005年入社で、今年勤務18年目になります。いまは子育てのために時短社員として、デ・プレ丸の内店で店頭接客や店舗のCRM業務を担当しています。
坂本氏:早速ですが、10年以上、アパレル業界の販売・接客に携わっているお二人から見た、販売・接客の仕事の魅力は何ですか。
中島氏:お客様と喜びを共有できることに尽きます。提案した服をお客様に喜んでもらえ、「周囲に褒められた」と声をかけてくださったり、お客様が知人の方を連れて一緒に買い物に来て下さるのは本当に嬉しいです。
村岡氏:人の役に立っているという実感を持てるのは大きいですよね。困っていたり、悩んでいるお客様の一番近くで買い物をサポートできる販売員は素敵な職業だな、と。自分にとっては、「答えがない」こともやりがいのひとつです。どうすればお客様に満足いただけるのか。100人いれば100通りの接客があり、決して単純化できないからこそ挑戦しがいを感じます。
坂本氏:接客のクロージングはまさに、マニュアルだけでないスタッフ個々のスキルに左右されますよね。購入を決めかねているお客様に対して、いかに自然に最後の一押しができるか。この仕事に就いている方の多くが悩んでいるポイントです。お二人は、どんなことを意識していますか。
中島氏:お客様が購入を悩まれているのなら不安を解消することに集中します。一方で、購入する意向が強くないお客様に、強引に売ることはしません。強引な接客をすればお客様との関係を損ねてしまい、次の来店にはつながらないので、“感じのいい振られ方”をより意識してしています。
村岡氏:すごくよくわかります。お客様を「気まずくさせない」スキルは大事ですよね。やっぱり、接客を受けたのに買わないのは申し訳ないという思いがお客様の側にもあるので、気を楽にしてもらうために、「次の新作にもっとかわいいのが出るので、ちょっと待った方がいいかもしれません」と、ちょっとした一言で気配りしていました。
坂本氏:目の前の売上ではなく、いかにお客様のことを大事にできるか。それが結果として、売上につながるという考え方がお二人に共通すると感じました。そんなお二人が今、スキルアップのために意識していることは何ですか。
中島氏:1つ目は、自分が接客を受ける側になることです。心地よい接客のために、どんな工夫や雰囲気づくりをしているのか見ています。2つ目は、教養を深めることですね。豊富な経験や知識を持つお客様にも何か価値を提供できるように、洋服だけでなく、多方面にアンテナを広げるように心がけています。
村岡氏:人間観察です。以前、お世話になった講師の方から「目の前にいる人をプロファイリングする癖をつけなさい」と言われて、以来、習慣になっています。現職ではSNSの企画に携わっているため、SNSの流行りや旬のネタのウォッチは欠かせません。これは他店調査と共通する部分があり、販売員時代の経験が生かされていると感じます。
坂本氏:キャリアを重ねる中で、壁にぶつかることもあるかと思います。お二人にとってはどのような壁があり、どう乗り越えてきましたか?
村岡氏:もともと現場の販売員として、接客コンテストなどにも積極的に出てスキルを磨いてきた一方で、Instagramが出始めた頃からブランドのオフィシャルスタッフとして SNSの取り組みにも力を入れてきました。出来ることを増やしてきたなかで、やっぱり販売員として9年ぐらい経った頃、次に何をすればいいのか、その先のキャリアに悩むようになりました。そんなとき、本社でデジタルに関連する新しい部署ができると知り、思い切って「自分はこんなことできます」と伝えたんです。その結果、今の部署に配属が決まり、私の接客やSNSのスキルをほかのメンバーに伝えていくという新たな役割を得ることができました。それによって、また、新しいキャリアが開けたと感じていて、キャリアに受け身になるのでなく、自分から動くことは重要だと思います。
販売員としての経験やSNSを活用してきたからこそ、伝えられること、理解してもらえることがあり、それがさらに働く仲間のモチベーションアップや売上向上に貢献できているので、頑張り甲斐があります。
バロックジャパンリミテッド村岡さんのインスタグラム:https://www.instagram.com/misato_muraoka/
中島氏:これは私の話ではありませんが、同じように時短として働いている方で、スキルがあるにも関わらず、「忙しくさせてはいけない」というマネジメント側の配慮から、誰でもできる仕事しかさせてもらえないため、モチベーションを失っているという話を聞いたことがあります。出産や子育てなどライフステージに応じて働き方は変わらざるえないですが、その中でも自分らしいキャリアを歩んでいけるように、自分がやりたいことを会社に伝える努力は必要ですし、会社側の意向とのすり合わせも行いながら、その時々にあった働き方ができるといいのかなと思います。
坂本氏:とても勉強になります。ここでフレッシュな、販売員になりたての方にもアドバイスをいただければと思います。新人時代を振り返ってみて、もっとこうしておけばよかったとか、あるいは、新人の時にこうするといいよといったアドバイスをいただければと思います。
村岡氏:私は、接客や販売員の仕事の魅力をもっと早く気づければよかったと思っていて。新人研修の質もどんどん高くなっているし、無料で参加できるセミナーもたくさんあるので、そういった情報に触れて、もっと吸収できればよかったと思っています。
中島氏:当初、自分もこれだけ長く一社で働くと想像していなかったので、そこまで深く付き合ってこなかったのですが、振り返ってみて同期とはもっと早くから関係性を築いておけばよかったなと思ってます。お互いに分かり合える同士なので。もうひとつは「失敗」ですね。キャリアを重ねれば重ねるほど失敗しにくくなるので、どちらかというと私は失敗せずにすり抜けてきたタイプなのですが、今思うと、もっとたくさん失敗を経験しておくべきだったなと反省しています。
坂本氏:たしかに、失敗は許容されるうちにどんどんすべきですね。
坂本氏:デジタルが発達するなかで、接客・販売の仕事も大きく変わってますよね。一方で、販売員は現場で目の前のお客様に向き合う存在という考えも根強くあります。そもそもなぜ、販売員はSTAFF STARTやLINEなどのデジタル施策に取り組む必要があるのでしょうか。
村岡氏:それはお客様のためです。企業側の都合という単純なことではありません。お客様は電話とかではなく、普段から使い慣れているもっと手軽なコミュニケーションを求めているんですよね。極端に言ってしまえば、たまたま自分の好きなサイトやSNSを見ていたときに、タイムラインにブランドの情報を目にすることが最も負担のないコミュニケーションであり、お客様に我々の情報を届ける方法であって、それがデジタルに取り組む理由です。
坂本氏:STAFF STARTやInstagramは、販売員自身が撮影から発信まで取り組むケースが多いですが、一方で、従来の広告カタログのように、本社でやろうとすれば発信できるものではないかとも思います。あえて実店舗のスタッフがデジタルで発信する意義は何だと思いますか。
村岡氏:「会える存在」だからです。画面越しの遠い存在ではなく、会える魅力があるのは、絶対的な強みなんです。私も店頭に出ていなければ、8万という今のようなフォロワー数になっていなかったと思っていて。販売員だからこそ、現場を知るからこそSNSをすべきで、強みにすべきです。
SNSはファッション映えする若手に任せればいいというのも誤解です。むしろ、キャリアを積んだ方こそアドバンテージなんです。たとえば、ネイルでも美容院でも担当者を指名するときに、新人さんよりもキャリアを積んだ人にお願いしたくなりませんか。それと同じで、キャリアを重ねていこと自体が価値なんです。店長クラスの得意顧客を持ち、過去の商品を知るエキスパートのスタッフこそ、活躍できる余地が大きく、自信を持ってSNSに飛び込んでほしいです。
中島氏:そう言ってもらえると、やる気ができますね。私はデジタルに疎く、若手にと思ってましたが、やっぱりオンライン接客やLINEなどを使って、お客様に「私の顔を見ると安心する」と言っていただけることは多く、柔軟に取り入れていきたいと思いました。
坂本氏:販売員からすると、SNSの発信と店頭での接客の時間の使い方もポイントがありそうですよね。どう時間のやりくりをしていますか。
村岡氏:シフトを組む時に、SNSの投稿を念頭に置いて計画を立てていました。SNSの発信は行き当たりばったりではなく、スケジュールを固めておくのがとても重要です。インスタライブなども、開催する1か月前から準備にとりかかえり、台本を作成して、ひとつの商品を何分で、誰がどんな風に紹介するか決めて臨んでいました。
中島氏:私も今、CRM業務も手伝っているのですが、シフトの段階である程度調整して組んでいます。一方で、店頭とLINEの接客が重なるケースも出てきており、どのように工夫したらいいか私も試行錯誤しているところです。
坂本氏:今後、これまで以上にテクノロジーの発達が見込まれます。巷ではAIサービスのChatGPTが話題になっていたりもしますが、オックスフォード大学が2012年に発表した論文には、AIにとって代わられる職業のトップが小売り販売業という衝撃の内容があります。身近なところでも、インターネットで簡単に情報が手に入る今、わざわざ接客を受ける必要があるのかと疑問視したりする声が出ています。一方で、2022年の販売職の求人倍率を見ますと前年比2.8倍(クリーデンス調べ)と伸びている現状もあります。こうした状況を踏まえ、これから販売職はどんな役割を担うようになるか。お二人は、販売職の将来をどう考えているかお聞かせください。
中島氏:AIが発達しても気持ちの共有は人間同士しかできないものだと思うんですよね。なので買い物に販売員スタッフが介在することの価値は大切にしたいな、と。たとえば、インバウンドのお客様に対して店舗周辺のおすすめスポットをご紹介するだとか、コンシェルジュ的なサービスに力を入れています。一方、コロナ禍を経て買い物を特別なイベントだと考えるお客様が増えていて、これからもっと買い物にエンターテイメント要素が求められるようになると思います。オンラインで簡単にモノが手に入る時代だからこそ店舗で買い物をする体験や付加価値の提供は追求したいです。
村岡氏:接客オペレーションは、AIやデジタルの活用で大きく変わりましたよね。従来は販売員が行っていたフィッティングのご案内も機械が代替しつつあります。AIやテクノロジーはどんどん発達していくわけですが、販売する相手が人間であることは変わりません。お客様に、どんなタイミングでどんな言葉を選んで語りかけるのか、発信するのかは、販売員の力量が問われる部分です。どんどんとツールが発達するからこそ、本物しか残れない世界になるし、力量ある販売員が今よりもっと評価される時代になると思います。
坂本氏:まだまだたくさんお話しを聞きたいところですが、時間が迫ってきました。最後に、お二人の今後の抱負や、視聴者の方に向けたメッセージをお願いします。
村岡氏:販売員という職業は、どんなキャリアを築いていけるのかわかりにくいイメージがあると思います。私自身が自分のキャリアを切り拓くことで、これから販売職を目指す人の“道しるべ”になりたいです。自分がやりたいことを言葉にして伝えることは本当に大事なので、皆さんも怖気づかずに、どんどん自分のスキルをアピールしてほしいですね。
中島氏:私も、販売員の新たなキャリアパスを体現したいと思っています。今年の目標は、接客コンテストの東京予選を勝ち抜き、全国大会に出ることです。自分が全国大会を目指すのはもちろん、一緒に全国大会を目指す後輩のサポートも自分の役割だと考えています。
坂本氏:皆様、本日はどうもありがとうございました。
株式会社バロックジャパンリミテッド
営業統括本部OMO推進部デジタルマーケティンググループ
村岡 美里氏
福岡県出身。2012年入社。約9年間riendaの販売員と店長を経て、現在は本社にて所属し全国の販売員に向けたSNS教育を行う。バロックジャパンリミテッドオフィシャルスタッフとして、自らもSNSでの情報発信を行っている。
株式会社トゥモローランド デ・プレ丸の内
中島 弘子氏
2005年入社。ファッションと旅行が好きでこの仕事を選択。人事や人財開発室が販売員の地位向上に力を入れており、とても共感した。名古屋や東京の店舗での接客販売を経て、サブマネージャーや店長を経験。出産を経て、現在は時短社員として働いている。分かりやすい論理的な接客を心掛けている。現在は店頭接客やCRM担当をしているが、ロールプレイング大会を経験し、若い世代が自主的にこのような大会に出場するようにサポートをしつつ、自分自身もさらにスキルを磨き続けている。
接客販売トレーニング&コンサルティング事務所 kocori(ここり) 代表
坂本 りゅういち氏
両親の経営する和食料理屋で生まれ育ち、接客の楽しさを学ぶ。大手アパレルファッションブランドで接客販売業に携わって以来、洋服・時計・靴・パーソナルストレッチジムまで、あらゆる業態において様々な商品販売を経験。数多くの売上獲得実績を持つ。『接客販売とは、お客様に未来を買っていただくこと』が信条。著書:「買った後を想像させれば誰でもこんなに売れる」